前座という4年半の間に、結果3回引っ越しをした。
修行中の身、お金がないから引っ越しなどしないほうが身の為なのだが、
当時住んでいた北千住の物件の取り壊しが決まり、移らざるを得なくなった。
引っ越し代はオーナーが全額持ってくれるというのでいくらか背伸びをしたように思う。
押上・スカイツリーの前にあるアパートへ。
家賃6.5万はお高めだが部屋は3畳という狭さ。
周りには自分を押し上げる為と言い張った。押上だけに、だ。
前座の言いそうなことである。
しかし、3畳じゃ今まで持っていた荷物が部屋に入り切らない。
取捨選択をして不要なものは実家に送った。
ちなみに今回言及したいのはこの「取捨選択」についてだ。
引っ越し初日、開梱したダンボールがドアにつかえた。
資源ゴミに出せない数日は掃き溜めに住んでいる心地。
しかし、整理整頓が済んでからは気持ちが晴々とした。
部屋が、その時の自分の作品の様な気がして快感だった。
この押上のアパートは空間を有効利用すべくロフトベット付きだが、
朝起きると天井に頭をぶつけた。
「住めば都」と嘯(うそぶ)いた。
が、2年目の更新を待たずして、北千住に戻った。
狭さによるストレスもあったかもしれない。
決定打は背伸びした家賃だった。
2度目の引っ越しで戻った北千住の物件は、丸井まで徒歩5分。
なのに家賃は4万円。建物1階に専用の風呂まで付いた激安物件だ。
この物件については、高座やラジオでも話しているが、
テレビの取材が入る珍物件で、面白がられることがまた快感だった。
1階と2階、それぞれにバーが入っていて、
3階に私の生活スペース、4階には稽古部屋まである。
前回実家に送ってしまった品々を送り戻したこともあり、物は増えた。
空間の大きさが在ればある程、埋めようと所有してしまう。
開梱した引っ越しダンボールは山積みであった。
3度目の引っ越しは結婚がきっかけで、
泣く泣く稽古部屋を引き払ったが、狭いながらも3階建の物件が見つかり、
3階が寝室兼稽古部屋となった。
2人分の引っ越しダンボールは過去最高の量だ。
妻の所有物は私のそれ以上であった。
ヤドカリのように引っ越しをする度、取捨選択を迫られた。
今、私はこの家に色んなものを所有している。
何が必要で、そうでないか、取捨選択しながらダンボールに詰めてきた。
古典落語は語り継がれる。
つまり落語家という器が時代を超えて運ぶ。
時に取捨選択の波にもまれながら、磨かれて来た。
私は一落語家として、ひとつの器・ダンボールとして、
何をどこへ運ぶのか。
只今、取捨選択中。
アイルランドのロックバンドU2の作品に、
”All That You Can't Leave Behind”
というアルバムがある。
訳すと(置いて行けないものすべて)となるらしい。
私にとって、置いて行けないものとは何か。
引き連れたいのは落語の何だろうか。
真打になる頃、また引っ越しをするだろう。
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